"最大多数の最大幸福は、道徳と立法の基盤である”
by Jeremy Bentham
Utilitarianism
まだ充分機体の性能を把握しているとはいえない状況だった。
それでも、発せられたスクランブル。
スパイがモビルスーツを強奪して逃げたのだとそう聞いた。だから訝りながらも与えられたばかりのデスティニーに乗って
「油断するな、追うのはアスラン・ザラだ」
言われたのは、そんな信じられないような台詞。
「えぇ?」
わけが分からなかった、スパイというのは他国のエージェントのはずだ。アスランはれっきとしたプラントの人間で、ザフトでも議長から特別に力を認められたフェイスで。
「・・・・・・・・・アスラン、そんな、なんで」
呟くけれどその間にも発進準備が整う。
追いながら、やっぱり信じられなくてレイに聞くけれど。
「だから分からないといっている。」
レイは、こんなに冷たい顔をしていただろうか
モニタに映る顔には表情一つ無くただ前の敵だけを見つめている。
そして、グフに追いついたのはそう先のことではなかった。
流石は新型、機動性は明らかにこちらが勝っているということである。
警告一つせずに、閃光が走った。
「レイ。」
まさかそんな暴挙に出るとは思わなくてシンは責めるように同僚の名前を呼ぶ。
「油断するな。」
レイの厳しい声と。グフから放たれた腕のビームガン、どちらが早かっただろうか
威嚇ではなかった
しかしそれも仕方のないことなのだろう。レイだって本気でアスランのことを殺そうとしていたんだから。
けれどシンはまだ動けないまま、一体どうして見方であったはずのアスランを撃たなければならないのか解らない。
最初は尊敬できると思っていた。
強くて、格好良くて。
オーブを捨ててザフトに来た姿勢も、それから作戦のときの冷静さも全てが超一流で。
けれどいつからだろう、先頭でも自分の活躍の方が目立つようになってしまったのが。
アカデミー時代のシミュレーターの記録は、いまだ正規のパイロットでも塗り替えられていいないという天才パイロット。
先の大戦でのエースの予想外の弱さにシンは憤った。
それに加えて、ステラを殺すような敵を擁護することばかりが多くて。
反発していたけれど。
死んで欲しい?
ステラのように。
もう二度と会えなくなるのに?
答えは否だった、だからシンはなれない機体でグフのメインモニタを狙う、それから武器を。本人は気付いていなかったけれど、それは確かに憎い敵であったはずのフリーダムの動きを模したものであった。
レイが距離を詰めるとアスランはすかさず刷れイヤーウィップで攻撃を仕掛けてきた。これは流れる高圧電流のために触れたダメージになる。仕方なしにレイは距離を取って。
よし、離れた。
レイに当たらないように止めていたデスティニーの射撃が再開する。
その全てを、アスランのグフはかわした。その速さと正確さはつい最近倒したばかりのフリーダムに勝るとも劣らない。いや、機体の性能が随分落ちることを考慮したならばパイロットの腕だけならフリーダム以上ということすら出来るだろう。
こんな力、一体どこに隠していたというのだろう。
それは、尊敬したアスランの姿だった、強くて、やっぱり死なせたくない。
「投降してください。」
気が付いたらシンはそう叫んでいた、グフは友軍機だ通常の回線を開くことができる。レイとアスランが接近戦闘を行っている間にデスティニーは既にグフの前に回りこんでいる。後ろからおっているレジェンドとあわせれば挟み撃ちにされたグフに逃げ場は無いはずだった。
以下に優秀でもこれだけ機体に差のある状態で2対1で勝てる人間なんて要る分けない。そんなの、シンでも分かるのに。
「君の気持ちは嬉しい。」
そう、通信に答えてくれたアスランは
「でも、俺はもう、ザフトには戻れない。」
はっきりと拒絶を示す。その後ろに赤い髪の女の子がいるのに、シンは気が付いた。髪型が違うから気が付かなかったけれどそれはアカデミーの頃からよく知っているルナマリアの妹で。
「メイリン。」
驚きに上げる声に。
「駄目、帰ったらアスラン、殺されてしまうの。」
少女は弱弱しい声で答える。信じられなかった、あの優しい議長が、しかしアスランは馬鹿ではない、命の危険があるような状況でなければここまでするだろうか?
シンが迷っているとその画面が、急にずれた。
メインモニタには、シンとアスランが離れているうちにすぐにシステムを頭に叩き込んでドラクーンシステムを起動させているレイがいる。
野心的、と、議長が言っていたそのシステムを。シンは見た事が無かった、けれど一瞬で寒気が走る。
そのくらいに、恐ろしい戦闘システムだった。
いくつもの無線式のビーム砲が360度の視界、機体の位置に関わらずグフに襲い掛かる
「アスラン」
思わず叫んでしまった。自分なら、避けられるだろうか。
あんなに小さな複数の的の、あんなに強く早い攻撃に。
それでもアスランは何とかそれを交わしていた、だから。
「シン、何をしている、お前も撃て。」
苛立ったようなレイの声が聞こえてくる。確か二度ラクーンは万能だ、しかしそれを動かしているのが人間である以上どうしても動きにある程度の規則性が出来てしまう。それが凡人の限界なのだ。
それでも、レイは初めてとは思えないくらい巧みにドラクーンを操っていた、けれどシンは知っている、このシステムがどれだけのエネルギーを食うか。
母艦が居ない以上補給は出来ない、となればこのままいけばエネルギー切れもありえた。
だからシンはデスティニーの火器を再びグフに向ける。
「シン。」
繋がったままの回線からアスランがそういった。
「お願いです、俺も議長に掛け合うから戻って、下さい。」
出なければ撃つと、未練がましいような説得、けれどアスランは言った。
「出来ない」
と。
「どうして!」
問いかける言葉に、
「俺は、自由は基本的人権の中でもっとも大切なものだと思う。」
ドラクーンを避けながらだというのに、それは冷静な声だった。
「それには精神的な、思想良心の自由や職業選択の自由も含まれてると思うんだ。」
そこで、とうとうレイの攻撃がグフのたてを破壊した。これでアスランはもう避ける以外にドラクーンに退行する術が無くなったことになる。それでも言葉は続いていた。
「能力があるからと、戦いたくないものが戦うのは、本当に幸福なことなのか。人殺しを強要するという個人の不幸よりもまさって他の人々の幸福の総計を産出するならば、それが道徳的だと、本当にいえるのか?」
それは、強い言葉だった。シンは分からなくなる。
そうだ、ステラは、ステラは戦争とか死とかそんな冷たい世界じゃなくて本当は暖かい世界が似合っていた、はずだ。
けれど議長の言葉が正しければステラは戦士として戦うべきだということになる。
あんなに怖がっていたのに。
向ける銃口がぶれた。
しかしシンが動かない間にも戦闘が進む。
一瞬の隙を突いたアスランのサーベルが、ドラクーンの一機を破壊したらしかった。調整中の新型は、それだけでそれぞれの連携が、うまくいかなくなるらしい。
形勢が、逆転しようとしていた。
「シン。」
レイの鋭い声が攻撃を促す。
正しいのはどちらなのだろう、分からない。だから。
シンはスラスターを前回にするとレジェンドに向かう。
「シン、血迷ったか。」
「分からない、分からない、から。」
アスランについていくこともそれからアスランも殺すことも出来ない。真にできることはそれだけだった。
注意がそれた隙にグフのテンペストソードがドラクーンを切り裂いていく。
「シン、お前も、裏切るのか?」
低い声が聞こえた、
「え?」
カッと、レイの瞳が見開かれる。
「レ、イ?」
避けられたのはきっと本能のおかげだ。そうで無ければレジェンドのサーベルは確かにデスティニーのコクピットを貫いていた。
「どうして。」
アカデミーから、よく話す奴じゃなかったけどずっと友達だった。仲間だと、今だって一緒で、お互い少しは支えに慣れてると、必要としてくれていると信じていたのに。
しかし考えがまとまる前に機体に衝撃が走る。
「メインカメラが。」
背後から、アスランに撃たれたのだ。同じくレイのレジェンドにもビームガンが打ち込まれる、グフは両手に四連式のビームを備えているから、その攻撃は弾幕のように絶えず。
シンをおいて、レイが引いた。
爆炎の中、けれどモニタが壊されてしまったシンには何も知る事が出来ない。
とはいえここはもう海上だ、不用意に脱出するのもはばかられる。
そうしているうちにピリピリと体に電流が流れるのを感じて、シンは意識を失った。
オーブの辺境の国、ダイラス。
砂漠に覆われたその土地のバザールに三人の男女が歩いていた。
「すまないが、これをもらえないか。」
と、露天商に掛け合って花飾りの付いた髪留めを二つ買ったのは藍色の髪の青年だった。その顔の大くはサングラスに覆われているけれど秀でた額、と追った微量。それだけでも相当な美形である事が見て取れる。
「プレゼントですか。」
小太りの女性は見惚れそうになりながら何とか愛想笑いを浮かべていた。
「ええ。」
にっこりと、反射的に出た紳士スマイルに彼女は陥落されたらしい、一つの値段で二つの商品をくれて。
「ありがとうございます。」
と、礼儀正しい態度は年上には好感度最大。
「け。」
それを見ながら、隣の露店にあった果物を一つ手に取るのは黒髪の少年、赤い瞳が印象的な彼もこのあたりでは早々お目にかかれないような容貌。しかし、
「あんた、そうやって、こいつもたらしこんだのかよ。」
口を開いて出てくる言葉は、お世辞にも品がいいものではなかった。
「ちょっと。シン。」
青年の後ろに控えてい赤い髪の少女がたしなめるように少年を責める。
「だってそうだろう、アスランの所為でお前も、俺も裏切り物だ。」
シンはそう言って
「すまない」
と謝るアスランに背を向けて手に取った果実をそのままかじる。
「お客さん、御代は。」
あせったような瓜売りの声に。
「そこの人が払うから。」
言ってすたすたと歩き出した。
その後を、会計を済ませたアスランはゆっくりと追う。隣を歩く少女には、
「大丈夫だ、あいつが言ってる方向には、宿しかない。」
と、彼が本気で逃げようとしているわけでないことを言って安心させて。
ザフトの追撃を逃れたアスランたち三人はモビルスーツを捨てて陸路でオーブを目指した。勿論ザフトと、それからロゴスを撃つと集まった地球連邦の兵士たちは血眼になって彼らを探しているようではあったけれど、それはそれ。蛇の道には蛇なのだ。
ロゴスのもたらす利益を失いザフトに敵対するものも少なくは無い、そしてそういう人間が欲しているものは一つなのである。
「金」
「ッたく、周到だよな。本当に。」
追われる身となって三人の口座やカードはすぐに封鎖された。しかしこの男はやはり只者ではなかったのである、オーブでアレックス・ディノとしてためたボディーガードの給金は手付かずのまま別口座に残っていた。そのうえ、先の戦いが終わった時に別人として発行されたIDは、まだ有効だったのである。
没収されないまま隠されたザラの財産と、ザラとは関係のない正規の市民権。
ザフト側がアレックスの存在に気付いたときは遅かった。アスランはオーブ領内に入り、オーブは今ザフトとは対立関係にある。
「これから、どうするんですか。」
宿についてそういうメイリンに。
「オノゴロを目指す、キラたちが生きていれば何をしても、あの国を守りに行くはずだから。」
そういう顔に、もう迷いはなかった。
メイリンは改めてその瞳に見入る、格好いいとか素敵とか以前の彼に思った自分は馬鹿みたいだ。本物の彼はこんなにも強く真っ直ぐで。
そんな男のそばに自分だけ居られることを、メイリンは胸の中でこっそりと姉に謝る。そこに、
「その前に、これ。」
アスランが差し出したのは先ほどの髪留めだった。てっきりカガリへの手土産にデモするのかと思ったのに。
「私に、ですか。」
驚いて尋ねれば。
「ああ、いつもの髪型に、してくれないか。」
そんな事を言われて、胸がドキドキしてくる。しかし。
「その髪型だと、キラが気にするから。」
はぁ!?
メイリンは素っ頓狂な声を上げるのを必死で堪えた。
「キラの初めての相手だった女に、似てるんだ、メイリンは。その子はもう死んでるんだけど。」
それはつまり、そのキラに気にさせないためだけに自分の髪型を変えろといっているのだろうか、この人は。
まるで、恋人にデモするかのような細やかな気遣い。
「あの、キラさんって、男ですよね。」
「ああ、でも優秀なくせにいい加減で、すぐ泣いて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(あまりにも長く主観的ないけんなので中略させて頂きます)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当にかわいいんだ。」
その語りが終わる頃には夜も更けようとしていた。そして帰ってきたシンがメイリンの口から聞いた言葉は。
「ホモ、最悪。」
彼を助けようとしたことを、メイリンは少しだけ後悔した。
三人の旅は、始まったばかり。
"満足した豚よりも不満足な人間である方が、
また満足した愚か者よりも不満足なソクラテスである方がよい"
by John Stuart Mill
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はいなんて言うか、あまりに趣味に走って手済みません、でも書いて手凄く楽しかったです。というか、これが作風なんで、本当済みません。
ちなみにタイトルの英語は「功利主義」という意味です、一昔前の議長の意見を聞いてたらなんか「最大多数の最大幸福」とか、もの凄い思い出しちゃってそれを当時論破したのと同じようにアスランに論破して頂きました、哲学大好き。ちなみに自由権は日本国憲法よりちょっぴりパクリ。 面白く、ないですよね、ごめんなさい、でも書きたかったんです。ので、こっそろご意見募集。別にこういうの読みたくないとかそう言う意見でもいいので、一言あるとsもの凄い励みになります。 後、作中でちゃんと出せませんでしたがシンは色々考えてアスランを見直している模様です。 本当の「幸福」を皆が見つけてくれる事を願いつつ。 |